日本におけるエンバーミン
全国統計によると日本国内のエンバーミング処置件数は年々増加の傾向にある。99%以上の遺体が火葬されていることから、日本におけるエンバーミングは「遺体の保存・保全」のみが目的ではなく、「安らかな生前のような表情に」等、より良いお別れやグリーフにかかわる目的も存在する。病院などで死亡した場合、遺体は速やかに看護師らによって体液や便の排出、全身の消毒処置(いわゆるエンゼルメイク、エンゼルケア)が行われるため、欧米と比較すると感染症のリスクは低い(現在エンゼルケアを行わない病院もある)。日本国内で亡くなった方を国外に移送する場合や、外国で死亡した日本国籍の方を移送する場合、エンバーミングを行うことがある。
歴史
日本においては、欧米圏のキリスト教による遺体の復活信仰やそれに伴い存在した火葬の禁忌・抵抗感の様な概念は乏しい傾向がある。また、江戸期には馬車が存在しておらず、もしも仮に旅先や遠い奉公先において急死者が出て、その遺体を遠隔地に搬送するとなれば実質的には長持などを用いて人力に頼らざるを得ず、一般庶民のレベルでは遺体をそのままの姿で長距離輸送するという考え方も選択肢も存在していなかった。この考えは欧米人によって馬車と牽引用の重種馬が持ち込まれた幕末から明治期、そして動力近代化が進んだ明治後期以降も本質的にはあまり変わることなく、戦時中も戦死者は現地で火葬され、戦後もまた長らく、多数の死者が発生した災害や事故では現地で火葬許可を得て早々に荼毘に付して遺骨を持ち帰るという形が一般的であった。長らく土葬習慣が残っていた地域も多いが、これらでも火葬も完全には否定されておらず、火葬の技術の進歩や施設の導入によって急速に土葬が衰退した。したがって死体現象の進行や伝染病の感染リスクが低く日本においては欧米圏の様なエンバーミングの習慣が広まることはなかった。
2003年に「犯罪被害者の遺体修復費用の国庫補助予算」が国会で成立し、海外でテロの被害によって死亡した外務官に対し公費で遺体処置が施された。しかし、公費負担による遺体の修復は、国内では埼玉県などの限られた地域でしか行われていない。また、遺体に対する切開や縫合は認められず、遺体の清拭と化粧・着付けの処置範囲に留まり、遺体の創部へは絆創膏や包帯でのカバーが行われているために、エンバーミングとは言えないのが現状である(費用も数万円でエンバーミング費用の7分の1程度)。同処置は司法解剖と死因調査解剖を受けた遺体に限定されることや、都道府県の予算化が進んでいないことも地域が広がらない原因の一つである。