肝細胞がんになった静岡市の無職男性(65)が生活保護を申請したところ、市に却下された。理由は「警察が暴力団と認定している」。男性は「すでに脱退した。きちんと調べて判断してほしい」と訴えるが、市の方針は変わらず、裁判で争いが続いている。
裁判に提出された書類によると、男性ががんと診断されたのは2014年3月。男性はこれをきっかけに組に脱退を申し入れ、県警に組長名の「脱退届出承認書」を提出するとともに同年5月、市に生活保護の開始を申請したという。
ところが、市が県警に照会すると、男性が暴力団員として県警のリストに登録されたままであることがわかった。6月、市は男性の申請を却下した。
暴力団に詳しい桐蔭横浜大の河合幹雄教授(犯罪社会学)によると、警察は脱退の届け出があっても5年程度はリストから外さないことが多いという。「暴力団排除条例ができて以降、経済的に困窮した暴力団員の脱退が相次いでいるが、真偽を確かめるのに警察のマンパワーが足りていない側面もある」
男性の代理人を務める間光洋弁護士は「警察の情報だけで判断されてしまうと、本当に脱退しても5年は保護を受けられないことになる。生活保護の無差別・平等の原理に立ち返り、収入や暮らしぶりについて実質的な調査を尽くすべきだ」と訴える。
暴力団などによる不正受給
昭和50年代後半には、全国の被保護者数が150万人に達した。それまでたびたび問題視されてきた暴力団組員による不正受給が発覚した。厚生省社会局は昭和56年11月17日付けで「生活保護法123号通知」を出した。その後、保護規準の適正化が進んだ。昭和58年には第二次臨時行政調査会答申を受け、厚生省は、保護を求める世帯の資産や収入を厳しくチェックするよう福祉事務所への指導を強化した。以後10年間で約4割が減った。しかし「適正化」の名のもとに「締め付け」が強化された面もあるとの指摘もある。
また、実際には暴力団を辞めていないのに、福祉事務所に虚偽の脱会届を出した上で不正受給を行なったとして、逮捕された例がある。
2010年頃から全国の福祉事務所の一部ではの窓口に警察官OBを採用し、暴力団関係者による不正受給や虚偽申請の防止や告発に取り組んでいるが、暴力団関係者や不正申請者以外の正当な申請者に対しても威圧的であったり、申請書を渡さずに追い返すなどの事例があるとして、2012年に日本弁護士連合会が「警察官OBの福祉事務所配置要請の撤回を求める意見書」を厚生労働省に提出している。