オキシトシン(Oxytocin, OXT)は、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである (Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly)。「幸せホルモン」、「愛情ホルモン」とも呼ばれ、ストレスを緩和し幸せな気分をもたらす。
人への投与についての研究
オキシトシンは良好な対人関係が築かれているときに分泌され、闘争欲や遁走欲、恐怖心を減少させる。オキシトシンをヒトに投与する実験が行われたが、鼻からの吸引によるこの実験では金銭取引において相手への信頼が増すことが判明。盲目的に信頼したといえ、損害を蒙ってもオキシトシンが再投与されれば再び相手を信頼し、不利な取引契約を締結してしまう。
2010年4月24日、金沢大学「子どものこころ発達研究センター」が知的障害のある自閉症患者にオキシトシンを投与したところ自閉症患者の症状が改善したと発表。主治医の棟居俊夫特任准教授は「知的障害のある患者で効果が確認された例は初めて」とコメントした。またアスペルガー症候群でも効果が確認されたとの報告もある。これを知った同センターに通院する20代の男性が2008年にオキシトシンの点鼻薬を輸入・服用(数か月間)したところ、主治医の目を見て話す、対話中に笑顔を見せる、IQテストが受けられるようになるなどの症状の改善が見られ、その後10か月間の投与でも改善の持続が確認された。男性は3歳で自閉症の診断を受け、以前は他者と目を合わせることができず、オウム返しの反応しかできなかった。
2014年には東京大、金沢大、福井大、名古屋大の4大学で大規模な臨床試験が行われた。また2018年には、オキシトシンを鼻にスプレーすることによってコミュニケーション能力を改善するという治験が開始される。
日本をはじめ世界のすべての国でオキシトシンを自閉症治療に使用することは薬事法で認められていない。
欧州などで授乳促進の適応で承認されているオキシトシン経鼻剤は、我が国においては、授乳促進のための医療目的でも使用を認められていない、国内未承認薬である。自閉症スペクトラム障害に対して、対人コミュニケーションや社会生活の困難さを軽減するような目的でオキシトシン経鼻剤を使うことについては、その安全性や有効性が検証されている途中の段階にあり、そのために現在、臨床試験などが行われている。したがって、効果があるかどうかも、安全かどうかも、まだ確認出来ていない状況にある。この様な安全性や有効性が確認できていない状況での未承認薬の自己使用は容認されるものではない。