テニスの全米オープン女子シングルス決勝で8日(日本時間9日)、元世界ランキング1位のセリーナ・ウィリアムズ(36)=米国=を6-2、6-4のストレートで破り日本選手として初優勝を飾った大坂なおみ(20)=日清食品=に、客席からブーイングが浴びせられた。
「子供の頃から決勝でセリーナと戦うことを夢見てきた。でも負けるような夢は見ていない」。そう語っていた大坂は、日本選手初の四大大会制覇の偉業を成し遂げると、憧れのS・ウィリアムズから抱きしめられ祝福された。母親やコーチが見守る客席に駆け寄った。コートサイドのベンチに戻ると、しばらく頭からタオルを被って優勝の喜びをかみ締めた。
しかし、試合は客席からのコーチング(指導)の疑いで警告を受けたS・ウィリアムズが、主審を「嘘つき! 謝れ!」などと罵るなど荒れた展開となっていた。表彰式が始まると、S・ウィリアムズの出産後初の全米制覇を期待していた客席からブーイングが起こった。
大坂の目から涙がこぼれ落ちた。S・ウィリアムズに肩を抱かれても表情は硬いまま。偉業達成の感想を問われた優勝インタビューでも涙をこぼし、異例の言葉を口にした。
「ちょっと質問じゃないことを語ります。みんな彼女(S・ウィリアムズ)を応援していたのを知っている。こんな終わり方ですみません。ただ試合をを見てくれてありがとうございます。本当にありがとう」
そして、S・ウィリアムズにお辞儀をして「プレーしてくれてありがとう」。プレー中とは正反対の弱々しい大坂の姿に、ブーイングを浴びせていた客席が一瞬、固まった。
第2セットは第4ゲームでセリーナがこの試合初めてのブレークも、大坂は第5ゲームですぐさまブレークバック。自らのプレーに納得のいかないセリーナは、ラケットを地面に叩きつけて破壊するなど苛立ちをあらわにした。
対する大坂は表情一つ変えずに冷静なプレー見せ、第7ゲームでブレークを奪取。判定に納得の行かない様子のセリーナは、ゲーム間に審判に激しく抗議しこの試合3度目の警告を受け、大坂に1ゲームが与えられる珍しい場面があった。
表彰式が始まると、地元のセリーナに声援を送っていたファンから大きなブーイング。異様な雰囲気に涙を流す大坂にセリーナは優しく言葉をかけ、観客席には「彼女はいいプレーをしました。彼女にとって最初のグランドスラムの優勝です。もうブーイングはやめましょう」と呼び掛けた。
最後は「おめでとうナオミ」と大坂を祝福。元女王が見せた器の大きさに、ファンから大歓声が沸き起こっていた。
快進撃の立役者は昨年12月から師事するドイツ人のサーシャ・バインコーチ(33)だ。大坂に強打よりも精度と教え、テニスの質が格段に向上した。この二人三脚が成功の理由をハイチ出身の米国人で大坂の父、レオナルド・フランソワさんは本紙にこう明かした。
「彼女に合わせて、上から教えてるんじゃなくて同じ目線。だからいい環境をつくり上げている。彼女はそういうのじゃないとダメ」。フランソワさんによれば、大坂が子供のころから「自分で勉強したくなかったら身につかない」と自主性を重視してきた。上から押さえつける指導は彼女の性格に合わずに「強く言うほど嫌がる」。バイン氏はフランソワさんの思いを汲んで徹底的な対話路線を敷き、大坂の能力を開花させたのだ。
その手法は日本テニス界にとっても目からウロコ。協会の土橋登志久強化本部長(51)は「見事だなと思う。これからのコーチっていうのは、そうでなければいけない」と目を細めた。「何かあれば必ずコミュニケーションを取って一方的ではなく、なおみから言葉を引き出して、お互いに納得して次のステップにいくところがある。試合前はナーバスになるんですけど、それをうまく和らげながら、試合の準備をしている」