光母子殺害・判決要旨
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▼(5)被害児に対する殺害行為について

(ア)被告人は当審公判で、被害児を床にたたきつけたことはない、同児の母親をあやめてしまったなどという自責の念から、作業服ポケットにあったひもを自分の左の手首と指にからめるようにし、右手で引っ張って締め、自傷行為をしていたところ、被害児が動かない状態になっているのに気がついた、被害児の首を絞めたという認識はなく、同児にひもを巻いたことすら分からない旨供述する。

(イ)被告人が被害児を床にたたきつけたこと自体は、動かし難い事実というべきであり、これを否定する被告人の当審公判供述は、到底信用することができない。

被告人は、検察官調書(乙17)で、たたきつけたことを認め、少年審判および第1審公判において、同児を床にたたきつけたことを認めていたものである。特に、死刑の求刑後に行われた第1審の最終陳述においても、被害児を床にたたきつけた旨供述した上で、謝罪の言葉を述べていたのである。

もっとも、その態様は被告人の検察官調書(乙25)にあるように、被告人が被害児を天袋から出した後、立ったままの状態で同児を後頭部から床にたたきつけたとは考えにくく、被告人が身を屈めたり、床にひざをついて中腰の格好になった状態で、同児をあおむけに床にたたきつけたと推認するのが合理的である。

(ウ)ひもによる絞頚について

被告人は当審公判で、被害児の首を絞めたという認識はなく、逮捕後の取り調べの際、捜査官からひもを示され、ひもが二重巻きでちょう結びであったことなどを教えてもらった次第で、当時は同児にひもを巻いたことすら分からない状態にあった旨供述する。

しかし、被告人が被害児の頚部(けいぶ)にひもを二重に巻いた上、ちょう結びにしたことは証拠上明らかであり、そのような動作をしたことの記憶が完全に欠落しているという被告人の供述は、その内容自体が不自然不合理である。しかも、被告人の新供述は旧供述に依拠した第1審判決の認定事実と全く異なる内容であるにもかかわらず、被告人は事件から8年以上経過した当審公判に至って初めて、そのような供述をしたのである。差し戻し前控訴審の審理が終結するまでの間に、被告人が新供述のような内容を1回でも弁護人に話したことがあれば、弁護人が被害児に対する殺人の成否を争わなかったとは考えられない。この供述経過は、極めて不自然不合理である。被告人の上記当審公判供述は信用できない。

▼(6)窃盗について

(ア)被告人は当審公判で、被害者方から出るときに布テープ、ペンチおよび洗浄剤スプレーを持って出て、3棟に着いた後、布テープと勘違いして財布を持ち出したことに気付いた旨供述する。

(イ)上記財布はその形状、大きさ、色などにおいて上記布テープと全く異なっていることに照らすと、布テープと勘違いして財布を持ち出した旨の被告人の当審公判供述は、その内容自体がかなり不自然である。

しかも、被告人は捜査段階から、財布を窃取したことを一貫して認めて具体的に供述していたのであり、当審に至って初めて、布テープと間違えて財布を持ち出した旨供述したものである。このような供述経過は不自然不合理であり、財布の窃盗を認める被告人の供述に不自然な点は見当たらない。この点に関する被告人の当審公判供述は信用することができない。

▼(7)被告人の新供述は信用できず、被告人の旧供述は信用できるから、これに依拠して第1審判決が認定した罪となるべき事実に事実の誤認はない。

(8)へ続く
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