光母子殺害・判決要旨
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《5》量刑について

検察官は、被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑は死刑を選択しなかった点において、著しく軽きに失して甚だしく不当であると主張する。

▼(1)本件は、当時18歳の少年であった被告人が白昼、排水管の検査を装ってアパートの一室に上がり込み、同室に住む当時23歳の主婦(被害者)を強姦しようとして激しく抵抗されたため、同女を殺害した上で姦淫し(第1)、当時生後11カ月の被害者の長女(被害児)をも殺害し(第2)、財布1個を窃取した(第3)という事案である。

▼(2)被告人は中学3年生のころから性行為に強い関心を抱くようになり、早く性行為を経験したいとの気持ちを次第に強めていた。被告人は高校を卒業して、地元の配管工事などを業とする会社に就職したものの、10日もたたないうちに欠勤するようになった。

本件当日の朝も欠勤して友人と遊ぼうと考え、会社の作業服などを着用し出勤を装って自宅を出た。そして友人宅でゲームをした後、自宅に戻って昼食をとり、再び自宅を出た。

被告人は強姦によってでも性行為をしてみたいという気持ちが生じ、そのようなことが本当にできるのだろうかと半信半疑に思いつつも、自宅のある団地内のアパートの10棟から7棟にかけて、排水検査の作業員を装って戸別に訪ね、若い主婦が留守を守る居室を物色して回り始めた。そして、誰からも怪しまれなかったことから、本当に強姦できるかもしれないなどと次第に自信を深めた。

被害者方に至り、排水検査の作業員を装い、信用されたのに乗じて室内に上がり込み、同女が若くてかわいかったことから、強姦によってでも性行為をしたいという気持ちを抑えきれなくなり、同女のすきを見て背後から抱きつくなどしたところ、激しく抵抗された。そこで被告人は、同女を殺害して姦淫した。さらに被害児が激しく泣き続けていたことから、泣き声を付近住民が聞きつけて犯行が発覚することを恐れ、同児が泣き止まないことにも腹を立て、同児をも殺害したものである。

いずれも極めて短絡的かつ自己中心的な犯行である。しかも第1の犯行は自己の性欲を満たすため、被害者の人格を無視した卑劣な犯行である。本件の動機や経緯に酌量すべき点はみじんもない。

その各犯行態様は必死に抵抗する被害者の頚部(けいぶ)を両手で強く絞め続けて殺害した上、万一の蘇生(そせい)に備えて、布テープを用いて同女の両手首を緊縛したり鼻口部をふさいだりし、カッターナイフで下着を切り裂くなどして姦淫を遂げ、この間、被害児が被害者にすがりつくようにして激しく泣き続けていたことを意にも介さなかったばかりか、第1の犯行後、同児を床にたたきつけるなどした上、なおも泣きながら母親の遺体にはい寄ろうとする同児の首にひもを巻いて絞めつけ殺害したものである。被告人は、強姦および殺人の強固な犯意の下に、何ら落ち度のない2名の生命と尊厳を踏みにじったものであり、冷酷、残虐にして非人間的な所業である。

被害者ら2名は死亡しており、結果は極めて重大である。被害者は一家3人でつつましいながらも平穏で幸せな生活を送っていたにもかかわらず、最も安全であるはずの自宅において、23歳の若さで突如として絶命させられたものであり、その苦痛や恐怖、無念さは察するに余りある。被告人を室内に入らせたばかりに理不尽な暴力を受け、かたわらで被害児が泣いているにもかかわらず、同児を守ることもできないまま、同児を残して事切れようとするときの被害者の心情を思うと言葉もない。被害児は両親の豊かな愛情にはぐくまれて健やかに成長していたのに、何が起こったのかさえも理解できず、わずか生後11カ月で、あまりにも短い生涯を終えたものであり、まことにふびんである。一度に妻と子を失った被害者の夫ら遺族の悲嘆の情や喪失感、絶望感は甚だしく、憤りも激しい。しかるに、被告人は慰謝の措置といえるようなことを一切していない。遺族の処罰感情は峻烈を極めている。

また、本件窃盗は第1、第2の各犯行後、被害者方から逃走する際、地域振興券などの入った財布を持ち去ったものである。地域振興券などを小遣いとして使おうなどと考えて財布を盗んだものであり、その利欲的な動機に酌むべき点はない。

被告人は犯行の発覚を遅らせるため、被害児の遺体を押し入れの天袋に投げ入れ、被害者の遺体を押し入れの下段に隠すなどしたほか、被害者方から自分の指紋のついたスプレーやペンチを持ち出して隠匿するなど、罪証隠滅工作をした。また、窃取した財布の中にあった地域振興券でゲーム用のカードを購入するなどしており、犯行後の情状も芳しくない。

そして、本件は白昼、ごく普通の家庭の母子が自らには何の責められるべき点もないのに自宅で惨殺された事件として、地域住民や社会に大きな衝撃と不安を与えたものであり、この点も軽視できない。

以上によれば、被告人の刑事責任は極めて重大であるというほかない。

(9)へ続く
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