光母子殺害・判決要旨
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(カ)弁護人は第1審判決が強姦の計画性があったと認定したことを論難するので、この点に関連する野田正彰教授の見解にも言及しつつ付言する。

(あ)野田教授は、強姦という極めて暴力的な性交は一般的に性経験のある者の行為であり、性体験がなく、性体験を強く望んで行動していたこともない少年が突然、計画的な強姦に駆り立てられるとは考えにくいなどとして、強姦目的の犯行であることに疑問を呈している。

しかし一般論として、性体験のない者が計画的な強姦に及ぶことは、およそあり得ないなどとはいえない。

(い)弁護人は、第1審判決が被告人は脅迫を用いて強姦することを計画した旨認定しながら、実際には脅迫を用いず暴行を用いて強姦した旨認定しているのは論理的に破綻(はたん)している旨主張する。

しかし、第1審判決は被告人の計画について、カッターナイフを示すほか、布テープを使って女性を縛れば抵抗できないだろうと考えた旨認定しているところ、布テープで縛る行為は暴行にほかならない。第1審判決は被告人が脅迫と暴行とを手段として強姦することを計画した旨認定しているのであるから、脅迫を手段とすることを計画しながら、実際には暴行を手段としたというものではない。

そして犯行計画というものは、その程度がさまざまである。本件のように、襲う相手も特定されておらず、相手を襲う場所となるはずの相手の住居も、その中の様子も分からないという場合、犯行計画といっても、それは一応のものであって、実際には、その場の状況や相手の抵抗の度合いによって臨機応変に実行行為がなされるものであり、あらかじめ決めたとおりに実行するというようなことが希であることは多言を要しない。

第1審判決も、被告人が事のなりゆき次第でカッターナイフを相手に示したり、布テープを使用して相手を縛ったりして、その抵抗を排除することを考えていたことを認定したものと解される。弁護人の主張は、第1審判決を不正確に理解した上で、これをいたずらに論難しているにすぎない。

弁護人は被害者方と被告人方とが近接した場所にあり、しかも、被告人が戸別訪問の際、勤務先の作業服を着て勤務先を名乗り、身元を明らかにしているなどとして、本件のような犯行をすれば、被告人が犯人であることが発覚する恐れが高いのであるから、被告人は戸別訪問をする際、強姦目的を有していなかった旨主張している。

たしかに被告人が強姦に及べば、それが被告人による犯行であることが早晩発覚するような状況であったことは、弁護人指摘のとおりである。しかし、被告人は排水検査を装うため作業服を着用することが必要であったのである。そして、被告人が首尾よく性行為を遂げることに意識を集中させてしまい、本件でしたような戸別訪問をした上で強姦すれば、それが自分の犯行であることが容易に発覚することにまで思い至らなかったとしても、不自然とはいえない。

しかも、被告人は差し戻し前控訴審の公判において、戸別訪問をしている時点では、作業服の左胸に会社名が書かれていることを忘れていた旨供述し、第1審公判では、父親に迷惑がかかるという考えは全くなかった旨供述しており、戸別訪問していた時点において、犯行が発覚することにまで考えが及んでいなかったことがうかがわれることも併せ考えると、弁護人指摘の点を考慮しても、強姦の計画性は否定されない。

(7)へ続く
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