静岡県熱海市立の青少年宿泊施設「姫の沢自然の家」が今年1月、聴覚障害者の団体宿泊の申し込みを「安全が確保できない」として断っていたことが、同県聴覚障害者協会への取材でわかった。市教委は「障害者差別解消法の趣旨を理解していなかった」と同協会に謝罪した。
宿泊を希望したのは全日本ろうあ連盟青年部。7月14、15日に聴覚障害者約100人が宿泊研修の予定だった。1月に手話通訳者を介して施設の空き状況を電話で問い合わせたところ、付き添いの有無などを聞かれ、「聴覚障害者のみ」と告げると、「他の専用の施設を利用してください」と断られたという。
同協会から相談を受けた県は「障害を理由に断ったと受け止められた」として、市に対応を指導。市教委が2月、同協会に「対応した職員が障害者差別解消法を知らず、配慮が足りなかった」と謝罪した。
姫の沢自然の家の所長は取材に、「施設はバリアフリーでなく、職員は手話ができない。災害時などに十分な避難誘導ができないと考えた」と話した。
同協会の小倉健太郎事務局長は手話を通じ、「法律や条例があるから謝るというのは、差別の本質を捉えていない。安全確保で工夫できるところはどこなのか、一緒に考える姿勢がほしかった」と話した。
熱海市が2018年度で「姫の沢公園自然の家」を撤廃することが分かった。12月8日の市議会11月定例会で川口健氏が「姫の沢公園と姫の沢自然の家、スポーツ広場」について質問。市教育委員会の森野敦事務局次長が「自然の家は2014年度の耐震診断で課題のある建物であり、倒壊する危険性があることが分かった。補強計画も含め協議してきたが、市内利用者の減少、稼働状況、市民の将来的な費用負担などを総合的に勘案し、廃止を決めた」と答えた。撤廃後は建物を取り壊す方針で、市内施設の利用促進や移動の際の費用負担などを検討している。
撤廃に伴い、隣接するアスレチック公園やスポーツ広場の利用減少が懸念される。川口氏の「対策は考えているのか?」の質問に観光建設部の西島光章次長は「トレイルランなど新スポーツの開催やキャンプ体験を促すとともに将来的に指定管理の方針も抱えており、新たな整備を検討している」と話した。
市によれば、2015年度の利用者は姫の沢公園が11万9598人、自然の家1万5550人、スポーツ広場2万434人。自然の家に宿泊し、サッカー等の合宿が31件あり、のべ3000人が利用した。 ◆姫の沢公園自然の家 熱海市の青少年教育宿泊施設。12人部屋×10室、10人部屋×1室、3人部屋(リーダー室)×3室、最大宿泊人数は139人。学生生徒の体験、サッカー場を利用したスポーツ合宿に人気。財団法人熱海市振興公社が指定管理者。
協会の小倉健太郎事務局長は「聴覚障害者は受け入れられないと言われ、気分が悪くなった。条例ではなく、権利の問題。障害がない人と同等のサービスを受けたいだけなのに、何が差別なのか分かっていない」と手話で説明した。