岩手医科大創立120周年の闇
脳神経関連のエキスパートで、全国医学部長病院長会議顧問などに就く小川彰医師が理事長を務め、地域の私立医科大学としてはそれなりの存在感がある岩手医科大学(岩手県盛岡市)。今年を創立120周年と位置付け、2019年開院を目指す附属病院移転整備にもラストスパートがかかる中、祝賀ムードに水を差す不明朗な運営ぶりが父兄や学生から指摘されている。
大学医学部や附属病院に散見される揉め事といえば、利権争いの派閥抗争やメーカーが絡んでの癒着などが“定番”だが、今回は学生が巻き込まれてしまった。5年生への進級試験で、必修試験が合格点にわずか3・2点足りなかった女子学生が留年の憂き目に遭ったのだ。
普通なら「悔しい」ということで学生も家族も納得するしかないが、そうもいかない事態となっている。女子学生より成績が下位の順位の学生8人や、科目試験25科目のうち20科目を落とし、総合試験3科目を落とした学生が進級しているというのだ。これには当の女子学生や家族だけではなく他の学生の間でも、SNSなどで疑問や噂が飛び交っている。
発端は2年前に遡る。進級出来なかった女子学生の父は「娘の留年は、大学への寄付金納付が遅れたからとしか思えない」と振り返る。
この男性宅には、女子学生の入学直後に、大学から「ご寄付のお願い」と題した文書が送られてきた。男性は、2010年5月に1000万円、11年5月に1000万円の計2000万円を寄付する旨の寄付金申込書を大学に送った。最初の1000万円は期日通りに寄付したが、2回目の1000万円は予定日を過ぎても振り込まなかったため、大学側から「寄付は分割払いでもいいから払ってほしい」と言われ、半年遅れの11年11月に1000万円を振り込んだ。さらに、男性は女子学生の留年が決定してから、慌てて15年3月に1000万円を振り込んだが、留年決定は覆らなかった。

ほどなくして、家族と共に困惑していた女子学生に、友人からメールが来た。
「〇〇ちゃん(編集部注:女子学生の実名)の実力とかの問題じゃなくて、全て寄付金だよ。うちの親は小林(同:当時の医学部長・小林誠一郎氏)達との話で〇〇ちゃんのこと確信したってさ。ターゲットにされちゃったんだよ。卒試前にうちも入れる絶対に」と書かれていた。「寄付金の納付が遅れると、進級に関わる」ことを示すための“見せしめ”だったのではないか、というのだ。
ここで関係するSNSが炎上し、ある書き込みには、「約束の寄付金遅れたために1教科3点足りなかっただけで、何の呼び出しもなくいきなり落とされた人いるよ。でもこれはかなり大学ヤバイことしたらしく、点数下げたらしいよ。そこまでして、ターゲットにして、見せしめつくって、恐ろしい。いずれ真実が分かるな」とまで書かれたのだ。「点数下げたらしい」という意味は、大学側が故意に点数を不合格域まで下げたということなのか。
その後、女子学生の父は弁護士を立て、試験や寄付金の在り方や両者の関係などについて、大学側を問い詰めてきた。その中で、小林氏から自発的に「寄付金は返してもいい」という趣旨の発言があったという。その後、大学側は弁護士を通じ、「寄付金によって進級したりしなかったりするものではないことを強調するために述べたにすぎず、返還する趣旨で発言したものではない」との詭弁とも受け取れる文書を出している。
この男性は「以前は3~4人だった留年生がここ数年で5倍以上になった。今は25人前後もいる。娘の時は18人。歯学部と薬学部が顕著に定員割れしている中、医学部では学生を足止めしての授業料稼ぎではないか。私立大学なら何をしてもいいと看過することは出来ない」と憤る。
岩手医科大の掲示板サイトには、“点数操作の実行者”とされる人物の名前まで出ている。「〜寄付金遅れた人をいきなり点数操作して留年までさせて。~小笠原さんが張本人ですがね」。「小笠原さん」とは、教務委員長を務める小笠原邦昭・医学部教授(脳神経外科)のこと。
男性は次のように話す。「小笠原氏と電話で話した時、勝手に答案をいじって循環器内科の試験の点数を上げたり、職務権限を越える不法なことをやっていたりしている実態を本人が認めていた。また、学生達も掲示板で指摘しており、公平さの担保が全くなされていない実状が浮かび上がっている。進級する際にお金を取るという、学生や父兄を食い物にした行為は、この大学のOBや教員を愚弄するものであり、決して許されるものではない。大学が腐敗した状況から脱却して、健全な発展を遂げることを切に望む」。
編集部ではこの件で岩手医科大学に取材を申し込んだが、期日までに回答は無かった。
留年と寄付金に関する真相を究明するため、男性は現在、詐欺罪などでの刑事告訴も検討しているという。